【外伝】海外ツーリングで気を付けること

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シンガポールの交差点で信号待ちの筆者

日本人が海外でバイクをレンタルして運転することが多い国は、タイやベトナムなどの東南アジアが多いのであろうか。レンタル料も日本に比べたら安く、店側も観光客慣れしているので簡単にレンタルできたりする。しかし、海外でもバイクは凶器であることには変わらず、気を付けなければならないことも日本と同程度にある。

今回は、筆者の経験をもとに、海外でバイクを運転する際に気を付けることを紹介したいと思う。前提としては、日本で自動二輪の運転免許を持っており、ジュネーブ条約加盟国でバイクをレンタルして運転するケースである。

ヘルメットの認証

日本の公道であれば日本の保安基準をクリアしているヘルメットをかぶって走行する必要がある。日本の保安基準をクリアしているかどうかの一つの指標としてPSCやSGといったラベルがヘルメットに貼られているかどうかであるが、これらのラベルがなくても保安基準を満たしていれば違法ではない。

PSC、SGマーク
PSC、SGマーク

では、海外で走行する場合はどうなのか。これは、大抵は日本のケースと同じく、各国独自に認証制度があり、その認証を受けたことを示すラベルがヘルメットに貼られていることをもって基準をクリアしたヘルメットであるとみなされる。つまり、日本で購入したヘルメットを持ち込んだ場合、現地国の認証はされていない状態となる。

日本で購入したヘルメットを持ち込んだ場合に、現地国の認証がされていないことを理由に現地の警察官から違反であると主張されるリスクも考えなければならないだろう。実際には基準を満たしている、あるいは、満たしているかどうかは検証してみなければ分からない場合、現地警察へそれを主張できるだけの現地国の法的知識と語学力、その主張に費やす時間が求められるからだ。

このリスクを回避するには、現地のレンタル事業者からヘルメットを借りることである。しかし、レンタルのヘルメットは大抵はジェット型(Open Face)なので、フルフェイスに比べたら顔への衝撃には弱いと思われる。

因みに、個人が自分のヘルメットを持ち込んで現地国の認証を受けることは、認証の方法が理由で事実上できないと思ってよい。どうしてもレンタルのヘルメットは嫌で、その国での走行を何度もすることが見込まれるなら、現地でヘルメットを購入するという手もある。ただし、ヘルメットは機内持ち込み荷物にはできない航空会社もあるので、日本帰国に際しての注意は必要である。

PSB認証
シンガポールのPSB認証ラベル

スモークシールドは違法か?

スモークシールド(tinted visor/smoked visor)を装着しての走行が違法となる国があるため、シールドの光線透過率(light transmittance)は気にしておく必要がある。因みに、クリアシールドの透過率が概ね85%程度である。

運転免許

国際運転免許証

ジュネーブ条約(厳密には「道路交通に関する条約」)の加盟国であれば、日本で発行された国際運転免許証(International Driving Permit)で運転することができる。パリ条約、ワシントン条約、ウィーン条約など、いくつか道路交通に関する国際条約はあるが、日本で発行された国際運転免許証が通用するのはジュネーブ条約加盟国だけである。

国際運転免許証のA欄にスタンプが押されれば、自動二輪車を運転することができる。

国際運転免許証
国際免許証の英訳ページ 日本語訳は「二輪の自動車(側車付きのものを含む。)、身体障害者車両及び空車状態における重量が400キログラム(900ポンド)をこえない三輪の自動車」である

ジュネーブ条約加盟国において、国際運転免許証ではなく、母国の免許証とその翻訳(大使館が発行したもの、または、アポスティーユされたもの)でも良いとする国もある。

レンタルできる = 法的に運転してよい、ではない

海外のレンタル事業者の中には、免許を確認せずに貸し出してしまうところがある。しかし、それは貸し手(Lessor)と借り手(Lessee)の間の話であり、レンタル契約(rental agreement)が成立したからと言ってその国の法律上、レンタルする車両を自分が運転しても良いことが保証されたということではない。レンタルする車両の運転を自分は法的に許されるのかどうかを確認する責任は自分にあり、警察に捕まってもレンタル事業者が貸してくれたことを言い訳にすることはできない。

逆に、法的にはレンタルする車両を運転できる免許を持っていても、免許取得年数や年齢に制限(免許取得から2年以上で23歳以上など)を掛けているレンタル事業者もあるので、予約前に確認が必要である。

普通二輪免許しかなくても大型二輪に乗れる?!

普通自動二輪でも大型自動二輪でもAT限定でも小型限定でも、二輪の自動車免許(原付免許を除く)があれば国際運転免許証のA欄にスタンプが押され、かつ、条件は何も記載されない。つまり、国際運転免許証の上では二輪の自動車が運転できるか否かだけの情報しかない。そうなると、

日本で普通自動二輪免許しか取得していないのに、ジュネーブ条約加盟国で国際運転免許証で400ccより大きい排気量の自動二輪車を運転することができるのではないか ー

という疑問が湧いてくる。これについては、筆者が確認した限り、関係機関、あるいは、担当者によって見解が分かれるようだ。

日本の某県の運転免許センターの担当者A ー

「日本の免許の範囲の排気量の二輪車しか運転できない」

担当者Aと同じ運転免許センターの担当者B ー

「法的には運転できる。しかし、例えば、外国人が国際運転免許証を持ち、母国で免許を受けていない排気量の自動二輪車を日本(ジュネーブ条約加盟国)で運転して事故を起こした場合、無免許運転の違反にはならないが、操る技能のない車両を運転したことによって起こったものとしてそれを理由に違反とする可能性がある」

この担当者Bが法的には運転できると判断した根拠は、警察庁の以下の通達からとのことである。

国外運転免許証に係る免許について運転することができる自動車等の種類が限定され(いわゆる審査未済により運転することができる自動車等の種類が限定されている場合も含む。)、その他自動車等を運転することについて必要な条件が付されていても、国外運転免許証に限定その他の条件を付する法的規定がないので、当該国外運転免許証には記載しないこと。ただし、限定その他の条件に従わないで運転することは、国際交通において著しく危険を生ずるおそれがあることから、日本で運転できない自動車等を運転することの危険性を十分に申請者に理解させ、国外においても限定その他の条件を遵守するよう教示すること。

引用元:令和3年5月14日 警察庁交通局長 「外国免許関係事務取扱い要領」の改正について(通達)

つまり、「日本で運転できない自動車等を運転することの危険性を十分に申請者に理解させ、国外においても限定その他の条件を遵守するよう教示すること。」の文は、法的には運転できるからこその注意喚起と解釈したようだ。さらに言うと、眼鏡等の条件も書かれないので、その条件を満たさずに運転してもそれ自体は違反ではないということだ。

これが海外の判断はどうかというと、これも筆者が問い合わせたところ、

某国の交通警察の担当者 ー

「It is actually based on your foreign driving licence (ie. Japan licence) and the International Driving Permit is serve as a translation to your foreign driving licence」
(母国の免許に基づくものであり、国際運転免許証は母国の免許の翻訳として機能するものである)

という回答で、見解が異なっている。

さらに加えると、日本全国にフランチャイズ展開している某レンタルバイク事業者はそのウェブサイトで普通自動二輪免許で大型二輪を運転できるという見解を示しており、こうなるともはやカオスである。

条約の解釈については関係機関や担当者で見解が分かれてしまっているが、免許を受けていない車両を運転することは、操る技能があることを確認されていない状態での運転なので、仮に法的には問題なくても安全上止めておいたほうがよいに越したことはない。

ジュネーブ条約の原文については外務省のウェブサイトで公開されているので、ご自身でも読んでみたい方のためにリンクを張っておく。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S39(2)-0533_1.pdf
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S39(2)-0533_2.pdf
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S39(2)-0533_3.pdf

保険をどうするか?

海外で交通事故を起こした場合に備えて、保険も確認しておきたいところである。主なところは以下である。

  • 相手方への補償 (Third-Party Liability Insurance)
  • 自分、同乗者の身体への補償
  • 自分の車両(レンタル車両)への補償

まずはレンタル事業者の保険を確認する

まずはレンタル事業者が提供している保険を確認するのが最初の一歩である。レンタル事業者の保険のカバーで十分と思うならそれで話が終わるからだ。

レンタル事業者のホームページに保険の詳細を載せている場合はそれを読めばよいが、掲載されていない場合は、メールやWhatsApp、SNSなどで連絡を取って保険の詳細を聞き出そう。因みにWhatsAppとはLINEのようなものである。日本人には馴染みがないが、海外ではWhatsAppの方がスタンダードなのでこれを機会にスマホにインストールしておいてもよいだろう。筆者は最近では日本入国用のPCR検査の予約で現地のクリニックとのやり取りにWhatsAppを使っている。

海外旅行保険では対人・対物・車両の補償はされない

日本の保険会社各社が提供している海外旅行保険は、対人補償・対物補償・車両補償は対象外である。海外旅行保険では、自分(加入者)の傷害死亡、治療・救援費用、携行品損害(車両は含まれない)、弁護士費用が対象となる(無論、これらの項目が加入した保険に用意されている場合)。2人乗りをするならば乗車するすべての人が加入する必要がある。四輪車のレンタルであれば、米国・カナダでの特定の事業者でレンタルした場合のみ、対人・対物・車両も補償対象となる保険もあるが、バイクに関しては、筆者が探した限りでは、対人・対物・車両補償を提供している海外旅行保険はなかった。クレジットカード会社付帯の保険でもこの事情は同じである。

ただし、新型コロナウイルス感染が発覚した場合の現地での医療費のために、コロナ禍では海外旅行保険には加入しておいた方がよいだろう。

ドライバー保険は海外での運転は対象外

このサイトの以前の記事で触れたのだが、日本の保険会社には「ドライバー保険」というものがある。レンタル車両を運転する場合に、適用できる任意保険である。しかし、この保険は日本国外での運転は補償されない。

現地の保険会社の保険に加入できるか?

日本の「ドライバー保険」のような保険が現地保険会社で提供されていればそれに加入するのは一つの選択肢であるが、そのようなレンタル車両の運転でも対象とする保険を提供している保険会社がない国もある。

結局はレンタル事業者の保険頼り

自力で補填できるのは自分、同乗者の身体となり、レンタル車両と相手方への補償はレンタル事業者が提供する保険がどうなっているかによって決まってしまうのが現状である。

保険はレンタル車両に対してのみであり他は補償されない、といったレンタル事業者はザラにある。相手方のある交通事故の場合、相手方からしたら無保険状態での走行となっているのである

保険でリスク回避・軽減できないならツーリングを諦めるのも一つの選択であろう。

パスポート(原本)は預けておく必要があるか

その国のバイクのレンタル事業の習慣として、レンタル中はパスポートの原本を預けることが求められる場合がある。しかし、外国人は通常、外出中はパスポートを携帯する義務がある。何かでパスポートが必要になった時のためにコピーを渡されたりするが、これは厳密には良くない。レンタル事業者を信用しなければいけないということはもちろんだが、必要なときにコピーでは不可とされるリスクがあるからだ。代替として、少し高めのデポジットを預ける方法を用意しているレンタル事業者もあるので、できればそちらを選びたいところだ。

現地の交通ルール(法律)を事前に確認しておく

駐車、停車可能場所

ツーリング中、常に走行しているわけではなく、必ずどこかに停まるはずである。それが、施設内なのか、公道なのかによって違いはあるが、バイクを駐車あるいは停車して良い場所なのかを予め調べておく、あるいは、即座に判断ができる状態にしておく必要があるだろう。

  • 食事休憩、観光施設で寄りたいところがバイクの駐車ができるのか
  • 公道で駐車、停車してはいけない場所は、どのような標識、標示で表されるのか

また、駐車料金はどのように支払うのかも事前に確認しておきたいところだ。

シンガポール交通警察のテキスト
出典:Singapore Traffic Police
シンガポールの道路では、道路脇にある線の本数・形状で、駐車・停車、時間帯の可否、罰則の違いを表している

標識、標示の意味

日本と同じく、大抵の国では、交通の規制や案内を看板や道路への印字で行っている。予め、現地警察等から発行されている標識、標示を解説した文書を入手し、勉強しておく必要はある。特に、標識、標示内の文字が現地の言葉でしか表現されない国もあるので、そういう場合は文字を丸ごと覚えておくことになるだろう。

信号の意味

左折可、右折可といった方向を指定した進行の可否については日本とは信号の表示が違う場合がある。日本では、進んで良い方向に制限がある場合、赤信号に進んで良い方向を青矢印で合わせて表すが、例えばシンガポールでは青信号に進んではいけない方向を赤矢印で合わせて表す。

シンガポールの信号機
右折以外は進行可 @ シンガポール
日本の信号機
直進、左折は可 @ 日本

二輪車通行禁止の道路、排気量に応じて走行可否がかわる道路

運転計画の中で、二輪車通行禁止の道路、排気量の制限がある道路がないかを予め調べておこう。例えば、タイの高速道路は二輪車は通行禁止である。後述するGoogle MapやiPhone標準の「マップ」アプリでは、二輪車設定や排気量設定ができず、四輪車用の案内がされる。また、二輪通行禁止・排気量制限の標識・標示のされ方も覚えておこう。

交通事故発生時の現地警察などへの報告

交通事故の場合に、どこにどのように報告しなければならないかを事前に確認しておきたい。日本の場合は、怪我人がいなくても、車両や他のものが少しでも傷が入ったら交通事故(物損事故)であり、最寄の警察への報告が法律上、義務となっている。立ちごけでバイクに傷は付いてもである。

現地の警察官が現地の言語しか話せない人が多いのかどうかも重要である。現地語が話せる同伴者がいればよいが、誰も話せない場合は、最悪、高速道路上で長時間立ち往生ということにもなりかねない。意思疎通できる自信がない場合は、ツーリング自体を諦めた方が良いと思われる。

海外で交通違反をしても日本の免許点数に加算はされない

前述の運転免許センターの職員によると、海外で交通違反をしても、日本の警察へは連絡されず、日本の免許点数への加算はされない、とのことであった。

バイク故障時の対処方法

日本であれば、パンクした、バッテリーが上がった、よく分からないがエンジンが掛からなくなった、などで走行できない場合は、最寄のバイク店を探して受け入れてもらえるかどうかを確認した上で、JAFや保険会社のロードサービスでその店へ運んでもらえばよいということは、バイクに乗る人ならご存じだろう。それが、渡航先の国ではどうなのかは渡航先の国ごとに違いがあるため、予め調べておく必要がある。事が起こってから調べ始めていたら、これも前述と同様に、高速道路上で立ち往生ということになりかねない。また、現地でスマホから電話、ネット接続ができる状態にしておくことも必須といってよいだろう。

給油

ガソリンスタンドの場所は予め調べておこう

知らない土地でのツーリングであるから当然ルートはある程度計画を持っていると思う。そのルート上、あるいは、その近辺での給油ポイントも予め計画に入れておきたいところである。これは、満タン返しなら必然的にレンタル店の近隣を探すことになるだろう。普通はGoogle Mapで探せば出てくる。

ガソリンスタンドでの手順

支払い方法は、ガソリンスタンド併設のコンビニ内で支払うケースがある。現金のみなのかクレジットカードも対応しているのかについても、その国の習慣を調べておこう。

油種は「レギュラー」「ハイオク」ではない

日本では「レギュラー」「ハイオク」といった油種の分類がされているが、海外ではこのような分類ではなく、オクタン価で分類されている場合が多い。自分が運転しているバイクがどのオクタン価のガソリンを入れるべきかはレンタル時に確認しておくのが良い。

使えるナビアプリは限られる

バイク用のナビアプリとして、NAVITIME社の「ツーリングサポーター」がある。しかし、これは日本国外では使用できない。「Yahoo!カーナビ」も日本国外では使えない。信頼できそうなアプリは以下の二つになろう。

  • Google Map
  • iPhone標準の「マップ」

他にも、Wazeや百度地图(Baidu Map)などが機能上は使えそうだが、日本での使い勝手もあまり良くないので、上の二つに比べたら案内の品質は期待しない方がよい。

Google MapかiPhone純正の「マップ」かのどちらが良いかは難しいところである、ただ、筆者の経験的には、Google Mapは時々おかしな道を案内するので、iPhoneユーザーには純正の「マップ」を勧める。両方使ってみた感じでは「マップ」の方が案内の品質が良かった。

どちらにも言えることだが、車両情報の登録はできず、二輪車の通行が禁止のルートでもお構いなしに案内される。高速道路、有料道路を案内しない設定にはできるが、誤って二輪車通行禁止の道路に侵入しないようによく標識を見ている必要はある(ナビアプリが通行禁止のルート検索をサポートしていても本来は標識で判断しなければならないのだが、より注意深くという意味で)。

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ここまで調べて海外ツーリングに臨む観光客はあまりいないとは思いますが、今回書いた内容のほとんどが運転者を守るための話です。個人的にはそれでも現地国の免許の学科試験をパスしていなければ不十分なくらいだと思います。

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旅好きが旅にまつわるデジタルライフをゆるめにお届けする場所です。執筆者はひと月に最低1度は海外に出掛け、現地の路地裏をウロチョロしています。

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